【東証1部上場企業における内部統制の不備の特徴】
報告書でうまくまとめられているように、東証一部での不備の特徴として以下があげられます。
不正の発覚を起因とした不備
①親会社よりも子会社での不備が多い
不正の発覚を起因とした不備に関する数値は親会社と子会社で以下のとおりです。
親会社 22社、18件
子会社 24社、31件
②不正の種類
不正には主に(1)不正な財務報告(決算の粉飾)、(2)資産の流用(現金などの資産の着服)、(3)汚職(公務員への贈賄など)の3つがあります。
このうち、(1)が多く見受けられます。また、手口としては棚卸資産や売上原価など操作しやすい科目を利用したものが多くなっています。
ちなみに(3)はないようです。(もしあったら内部統制の不備を開示するだけではすまないのですが。)
誤謬の発覚による不備
③決算・財務報告プロセスでの誤謬が多い
通常の業務プロセスではもはや重要な不備となるほどの誤謬は発生しにくくなっています。他方で、見積りや非定型取引に関連する決算・財務報告プロセスではまだ重要な不備が発生しています。
【上記を踏まえた考察】
①と②は密接に結びついていて、東証1部企業における子会社管理の重要性が浮き彫りになっています。内部統制報告制度によって確かに企業の内部統制は強化されましたが、親会社の目が届きにくい子会社に対する内部統制はまだ改善の余地があります。
一般的に日本では、親会社の子会社に対するモニタリング体制が甘いという特徴があります。このため、親会社が子会社に強い業績達成のプレッシャーをかけたことに対し、子会社が粉飾をしてこれに応えようとした場合、それを防止・発見することができないことがあります。
なぜ、モニタリング体制が甘いのか?日本企業は国内や海外に子会社を作る場合、まずは売上を確保・拡大させることが優先されるため、子会社における管理体制、規程・ルールの整備は通常後回しにされ、システムも独自のものが採用される傾向があります。そのため、共通の管理基盤を構築しないために、親会社による子会社の指導・チェックがしにくくなってしまうのです。ちなみに外資系企業の場合は、組織体制もシステムも規定・ルールもまったく本国のコピーであることが多く、親会社と子会社で行われていることが同じであるため、互いのコミュニケーションがしやすく、チェックや指導も行き届きやすくなっています。(もちろん、十分に行われていないこともありますが。)
親会社側でも子会社を管理する部門が複数あり役割分担も不明確なために、子会社管理に漏れや重複が生じているケースがよく見受けられます。子会社からすれば同じことを何度も求められたり、逆に管理すべきリスクが管理されないということが起こります。
また、親会社の内部監査部門が子会社のリスクを十分に把握・評価できず、メリハリのきいた有効な監査が行われないこともあります。
報告書において子会社管理の重要性が強調されるのもうなずかれます。
③は今後も発生すると予想され、完全になくすことは難しいと思われます。会計基準はより高度化し、非定型な取引もますます行われるでしょう。
対策としては、会計処理の過程をくまなく文書化し、あらかじめ関係者と合意しておくことです。IFRSに移行する会社であれば文書化が進んでいるはずので、決算・財務報告プロセスでの誤謬への対策も自然に進んでいるかもしれません。
JIM ACCOUNTING
名古屋市名東区にある公認会計士・税理士事務所です。
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