内部統制報告制度の運用の実効性の確保について(その7-運用上の課題)

【内部統制報告制度の運用上の課題】

報告書では以下の課題が取り上げられています。

1.評価の範囲の決定

(1)評価範囲の外から開示すべき重要な不備が発見された場合の取扱い

評価範囲の外で重要な不備が発見されていると思われるのに、評価範囲の見直しに関する記載がない

(2)財務報告に対する影響の重要性が僅少である事業拠点

評価範囲の決定が機械的

(3)業務プロセスに係る評価の範囲の決定

評価範囲の決定が機械的

2.経営者による内部統制評価

制度導入から相当の期間が経過し形式的な運用が行われている、

ITの十分な理解と情報の利用

3.内部統制の有効性の判断

(1) 内部統制の不備の評価

虚偽表示や不正が実際に見つからないと、不備があると評価できない

(2) 開示すべき重要な不備の開示 

開示内容が比較的簡潔であり、発見に至った経緯や是正措置の内容・スケジュールを知ることができない

4.経営者による財務報告に係る内部統制の評価の理解・尊重

監査人が経営者の評価方法や結果を尊重しすぎている


【上記を踏まえた考察】

上記の課題は大きく3つに分けられます。

①制度がもともと内包していた課題⇒1(2)(3)、3(2)、4

②実務的・現実的課題⇒1(1)、3(1)

③経営者評価のノウハウの継承と高度化⇒2


①について

1(2)(3)の課題において、評価範囲が機械的に決定されてしまいがちなのは、そもそも内部統制評価の基準書に具体的な量的基準が書かれてしまっていることも大きな要因である。経営者や監査人はまずこの数値を満たすことに主眼を置かざるを得ません。もちろん、質的基準による評価範囲の追加も言われていますが、他方で内部統制評価のために費用・時間をかけすぎないことも言われていたわけであり、制度そのものが当初から矛盾を抱えていました。

3(2)の課題も、重要な不備をどこまで開示するかは会社に任されているなかで、詳細な記載は期待できません。ここを課題とするのであれば、基準セッター側の規制や指導も必要でしょう。

4の課題も、経営者評価を最大限尊重するように制度がもともと求めていたのであって、監査人からすれば何をかいわんやでしょう。専門家としての正当な注意まで失ってしまうのはもちろんいけませんが。

②について

1(1)については、おそらく評価範囲の見直しなどということになると、評価をはじめからやりなおすという大きな問題に発展するのを避けたかったのでしょう。そんなことは実務上不可能であるし、かといって現実に評価範囲外から重要な不備が発見された以上、訂正内部統制報告書を出さざるを得ないという苦渋の決断があったのだと思われます。

3(1)についてはすでに述べましたが、全社的な内部統制に不備があったとしても、現実に虚偽表示や不正が起こらないと、重要であるとはなかなか言えません。たしかに理論的には虚偽表示がなくても、全社的な内部統制の重要な不備は指摘しえるのですが、実務上はかなり難しいでしょう。

③について

内部統制評価制度も導入から10年が経ちます。どの会社でも、当初の評価メンバーはすでに実務から離れており、評価範囲や評価手続の決定過程やその内容を深く知る人は少なくなっています。また、評価にかけられる人員・時間・費用などのリソースも限られています。

どの企業もこの問題に悩んでいると思われますが、ITを積極的に利用することによって解決の糸口が見つかるかもしれません。


計7回に及びましたが、これで「内部統制報告制度の運用の確保について」の連載を終了いたします。

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JIM ACCOUNTING

名古屋市名東区にある公認会計士・税理士事務所です。