収益認識基準ステップ2-履行義務の識別

ステップ2は履行義務の識別です。

【意義】

「収益認識基準の前置き」で述べた通り、ステップ2はステップ1とともに会計処理単位を決定するための工程です。ステップ2では、ステップ1で識別した契約を個々の履行義務に分ける工程になります。

【主な論点】

①そもそも履行義務って何?

履行義務とは契約におけるモノ(財)またはサービスを提供する約束のことです。(会計基準7項参照)もし、契約が一つの約束しか含んでいない(例えばAという商品を1個だけ提供する)のであれば、当該約束はそのまま履行義務になります。しかし、同じ契約書に複数の約束(例えば、Aという商品を10個提供する、当該商品をそれぞれ加工するサービスを提供する)が含まれている場合はどうなるのでしょうか?それぞれが単独で履行義務になるのか(20個の履行義務)、それともまとめて1個の履行義務になるのでしょうか?

履行義務はそれ単独で提供することに意義があるかどうかが問われます。一つの約束自体に意義があるのであればそれだけで履行義務となりますし、一つの約束が他の約束と密接不可分に結びついていて、それらがともに提供されて初めて意義が生まれるのであれば、それらの約束をまとめたものが履行義務になります。

イ〇アやニ〇リで家具を構成するパーツ一式を買う場合を考えてみましょう。この家具は組み立てないと使用できませんので、契約には(1)家具の提供だけでなく、(2)組立サービスも含まれています。(1)と(2)の約束を果たして家具が完成し使用できますので、これらをまとめて1個の履行義務とすべきとも考えられます。しかし、(2)は買った人が知り合いの大工さんに頼んだり、あるいは自分でもできるものであれば、(1)と(2)は密接不可分とは言えませんので、それぞれが単独の履行義務になります。(ちなみに特殊な事情がない限り、パーツ一つ一つを単独の履行義務とはしません。通常それらは一つの家具を構成するために使用されます。一つ一つをそれ以外の目的で使用するのが明らかでなければ(例えば、パーツ単位で転売するとか)、単独の履行義務にはならないと考えられます。)

他方、(2)が専門の知識・ノウハウ・設備や工具等がないととても提供できないサービスであるとすると、買った人はそれを知り合いに頼んだり、自分で行うことは難しくなります。このような場合は、(1)と(2)は密接不可分なものとなりますので、まとめて1個の履行義務になると考えられます。

モノやサービスを提供する側(収益を認識する側)にとっては、履行義務はなるべく少ない約束で構成される方が有利かもしれません。1個の履行義務を構成する約束が多くなればなるほど、収益を認識するまでにしなければならない作業が多くなりますので、収益の認識は遅くなるためです。ただし、その分履行義務の数が多くなりますので、1個1個がどのような状態にあるのかを管理する手間が増えてしまいます。


②重要性の扱い

履行義務の識別は、重要性がなければスキップすることもできます。(適用指針93項)

しかし、重要性があるかないかをどうやって判定するのかが論点になりますので、しっかり話し合ってその方法を文書化しておかなければなりません。


③その他

もし契約にある約束をすべて履行したとしても、顧客にとって意義がない場合はどうなるのでしょうか?この場合は、ステップ1の契約の識別の段階ですでに間違えている可能性があるので、ステップ1に戻りましょう。


【内部統制上の課題】

ステップ1と同じように、ステップ2を行うためには、従来と比較して契約のより細かい内容や約束どうしの関連性などを把握していなければなりません。これを誰がどの時点で行うのかが課題になります。営業部門と経理部がそれぞれ役割を分担しながらでないと対応できないでしょう。

また、識別した履行義務が、どのような状態にあるのか(提供前なのか、提供中なのか、提供済みなのか)を追跡する仕組みをこの時点で用意しておかないと、最後のステップの収益の認識のタイミングが遅れる可能性があります。最低でも四半期単位ではできるようにしておくべきでしょう。


次回、ステップ3(取引価格の算定)につづく。

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JIM ACCOUNTING

名古屋市名東区にある公認会計士・税理士事務所です。