【目的】
本研究報告の目的は、金融庁の「会計監査の在り方に関する懇談会」での提言をうけて、「制度導入後10年を迎えようとしている内部統制報告制度について、所期の目的(筆者注:開示企業における内部統制の充実)を達成するような運用が定着しているのかどうかという観点から、その運用状況について検討する」ことです。
【方法】
上記目的を果たすためには、企業や監査人、さらには投資家に直接尋ねるという方法も考えられますが、そうなると調査対象が広範囲に及び人手も時間もかかるためか、以下のようにすでに公表されている文書の閲覧・分析によって検討を行っています。
検討対象:「開示すべき重要な不備」(以下、不備という)が報告されている
内部統制報告書(訂正含む)、
第三者委員会または社内委員会の調査報告書(公表されている場合)
報告書が対象としている時期:2013年4月期から2017年3月期の4年間
報告書が提出されている時点:2017年6月30日
方法:上記条件で抽出された報告書において公表されている不備の事例を以下のように分類・集計したうえで、その傾向を分析
①企業の分類
(1)東証一部(さらに大規模企業と子会社管理にわかれる)
(2)それ以外(新興企業を含む)
②不備の要因による分類
(1)不正
誰が中心となって行ったかによってさらに以下の4つに分類
親会社経営者、子会社経営者、親会社従業員、子会社従業員
(2)誤謬
どのプロセスで生じたかによってさらに2つに分類
業務プロセス、決算・財務報告プロセス
【結果概要】
①企業の分類による分析
報告書の提出件数は合計207件で、うち「東証1部」が84件、「それ以外」が123件となっています。東証1部の企業数が2,000社、それ以外の企業数が1,500社であるとすると、それぞれ4.2%、8.2%の企業が4年間で不備を報告していることになります。「それ以外」は、新興企業などの人員が不足しがちで十分な内部統制を構築できない会社がより多く含まれますので、絶対数でも比率でもより多く「不備」が発見される傾向があります。
全体では5.9%(1年間当たりにすると1.5%)の企業が不備を報告していますが、制度導入当初から同じ方法で集計された数値がないので、当該数値が良いのか悪いのか判断しづらいです。少なくとも検討された4年間に関していえば、不備を報告した報告書の提出件数は年々減少しています。(68件→60件→56件→23件)しかし、これはあくまで2017年6月30日現在で集計されたものであり、検討された期間を対象とする訂正報告書は今後も提出される可能性があります。そのような可能性も考慮すると、不備の件数はここ数年下げ止まりの傾向にあるのかもしれません。
②不備の要因による分類による分析
報告書の提出件数207件のうち、不正によるものが119件(57%)、誤謬によるものが88件(43%)となっています。不正の方が誤謬を上回っていますが、不正は発覚するまでに数期間経過していることが多く、同じ企業が複数の期間で訂正報告書を提出することがあることも大きく影響しています。提出件数ではなく、提出社数でみると「東証1部」では不正は24社、誤謬は22社となり、ほぼ拮抗しています。(「それ以外」については社数データが記載されていません。)しかし、今後も訂正報告書により不正を要因とする不備が増えるだろうと予想されます。
不正を要因別にみると、「東証1部」では子会社の経営者・従業員によるものが目立ち(49件のうち31件、比率では63%)、「それ以外」では親会社の経営者・従業員によるものが多くなります(70件のうち49件、比率では70%)。このことから、本研究報告では子会社管理の視点からの内部統制に重きが置かれています。
誤謬は、「東証1部」が35件、「それ以外」が53件となっていますが、いずれも決算・財務報告プロセスでの件数が大きな割合を占めています(それぞれ66%、72%)。業務プロセスは日常的なプロセスであるために誤謬は生じにくいですが、非定型・不規則・新規な取引、見積もりの要素を含む決算・財務報告プロセスでは誤謬が生じやすいためでしょう。
【まとめ】
内部統制の充実が不備を出さないことだとすると、課題になるのは不正をなくすこと、決算・財務報告プロセスにおける誤謬を減らすことの二つになります。
いずれも重い課題ですね。そんなことわかってるよと言われそうですが、企業は本研究報告で指摘された課題に地道に対応していくしかありません。
JIM ACCOUNTING
名古屋市名東区にある公認会計士・税理士事務所です。
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